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2025.12.08

【イベントレポートvol1】地域におけるミドルシニアの活躍可能性

イベント概要

本イベントは、「地域におけるミドルシニアの活躍可能性」というテーマの下、地域課題解決の最前線に立つ自治体、人的資本経営を推進する大手企業、そしてキャリアの新たな一歩を模索するミドルシニア当事者という、多様なステークホルダーが一堂に会し、新たな連携と共創の可能性を探る機会として開催されました。

本レポートは、当日の議論のサマリーとして、以下の三部に分けてお届けします。


第一部 基調講演:地域におけるミドルシニアの活躍可能性

登壇者:Dialogue for Everyone株式会社 代表取締役 大桃綾子

本講演では、ミドルシニア人材が自身のキャリアを再構築し、同時に地域課題の解決に貢献する「越境学習」というアプローチが、ミドルシニア本人の成長および地域の受入側の課題解決のきっかけになることが、具体的な事例と共に語られました。

「手間をかけて繋ぐ」事業モデル

当社は、40代から60代のミドルシニアに特化し、キャリアの棚卸しを行う「キャリアデザイン研修」と、社外での実践機会を提供する「大人のインターンシップ(越境学習)」を組み合わせたプログラムを展開しています。生業が研修(教育)であるからこそ、ミドルシニア個人、所属する大手企業、そして受け入れ先となる地域という三者を、それぞれの背景やニーズを深く理解した上で「手間をかけて繋ぐ」強みを蓄積。この丁寧なプロセスが、三者にとって価値ある協働を生み出す基盤となっています。

越境学習がもたらす三方良しの価値

越境学習が、参加する各ステークホルダーに提供している主な価値は以下のとおりです。

地域にとっての価値:課題解決の推進力

自治体や地域企業にとって、ミドルシニア人材は「やりたくてもやれなかった重要課題」を前に進めるためのパートナーとなります。例えば、山口県萩市では「都市部企業誘致の調査」、熊本県相良村では「自治体DX推進に向けた村民意識調査」といった、リソース不足で着手できなかった課題の緒を見出すきっかけとなりました。

ミドルシニア個人にとっての価値:ポータブルスキルの再発見

長年慣れ親しんだ「ホーム」環境と、常識が通用しない「アウェイ」環境を行き来する越境学習により、参加者は自身の強みを再発見しています。特に、自分では当たり前だと思っていたスキルが、環境が変わっても通用する「ポータブルスキル」であることに気づく機会となります。これは「プロジェクト管理」といった専門的なビジネススキルに限りません。参加者からは「社長の話をじっくり聞いたことが喜ばれた」「ミーティングの議事録を書いて、他の部署にも回したら、『社長が言ってることがやっとわかった』と言われた」といった声が寄せられており、これまで意識してこなかった「名もなきスキル」が評価され、新たな自信に繋がっています。

企業にとっての価値:人的資本の最大化

組織のボリュームゾーンであるミドルシニアへの投資は、企業にとって、主に以下3つ切り口から、メリットをもたらしています。

  1. ミドルシニアの活性化: 参加者の行動変容率は90%。越境学習を通じて刺激を受け、社内での新たな業務への挑戦、リスキリングといった新たな組織貢献が生まれています。
  2. 人的資本の最大化: ミドルシニアの行動変容は、組織における同世代のロールモデルとなるだけでなく、若手世代へのポジティブな影響が報告されており、効率の良い投資となっています。
  3. サステナビリティ推進: 地方創生や地域企業の成長に貢献する活動は、企業の社会貢献活動としてもブランドイメージ向上に繋がっています。

協働から生まれる新たな価値:2つの事例

事例1:神戸市

神戸市が抱えていた「世界パラ陸上競技大会への寄付金集め」という役所内で知見の無かった取組みに、旭化成の岡本氏が参画。週1回のオンラインミーティングを軸に協働し、資金集めのための「ONEクラス応援制度」という具体的なアイデアを創出・実現しました。特に、神戸市のメンバーが出張できない東京のイベントに、岡本氏が神戸市の名刺を携えて単身で参加し、プロモーションを自ら行っていました。当初2ヶ月間のプログラム終了後も、岡本氏は大会開催までプロボノとして活動を継続し、共に汗を流す「チーム」の一員として、大きな成果に繋がりました。

(募集内容はこちら:https://second-career-school.dialogueforeveryone.com/internships/internship-kobe2024/ )

事例2:北海道浦幌町

人口約4,000人の浦幌町は、教育に力を入れることで20代の転入超過を実現した先進的な自治体です。しかし「若者だけでは基盤は創れない」という新たな課題認識から、ミドルシニアとの協働を開始しました。具体的には「ふるさと納税商品のパッケージデザインと若手デザイナーへの指導」には50代のクリエイティブディレクターが、「都市部ミドルシニア層をターゲットとした移住促進施策の企画・調査」には総合化学メーカーの営業職といった都市部の人材が参画し、地域に新たな価値をもたらしています。

募集内容はこちら:https://second-career-school.dialogueforeveryone.com/internships/urahoro/  

「シニアだからこそ活用」への転換:「シン・ゼネラリスト」の誕生

5年間の事業を通じて見えてきたのは、ミドルシニアが地域で真に活躍するためのポイントです。それは、単なる「Do/Have(経験・スキルがある)」にとどまりませんでした。

これまでのキャリアで培った経験やスキル(Do/Have)に加え、「Be(残りの人生を掛けて実現したいビジョン)」を持ち、「手放すこと(プライド・固定観念・他者評価)」により、ミドルシニアは最大のポテンシャルを発揮していました。

この内面的な変化こそが、「若者が採用できないから“しょうがなく”シニア活用」という消極的な発想から、「人生経験を重ねた“シニアだからこそ”できることがある」という、積極的な活用へのパラダイムシフトを促します。

この変化を遂げた人材を、大桃は「シン・ゼネラリスト」と呼びます。ミドルシニア層は長年の経験をとおして、特定の専門スキルだけでなく、文脈を把握する、異分野の知識を繋ぎ合わせる、対話を通じて合意形成を図る、といった「名前のついていない」力を持っています。後述のパネルディスカッションで浦幌町の山内氏が指摘するように、この「シン・ゼネラリスト」こそ、複雑な地域課題の解決に不可欠な存在なのではないでしょうか。

定量的な成果が示すインパクト

本プログラムは、参加者に具体的な行動変容をもたらしています。

まとめ

第一部で示されたのは、ミドルシニアと地域の組織が化学反応を起こす民間主導のモデルです。このモデルを社会全体に拡げるには、参加のハードルを下げる制度的なインフラが不可欠となります。第二部では、国がそのインフラとして整備する「地域活性化起業人制度」について紹介いただきました。

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