〖イベントレポート〗ミドルシニアと地域企業の協働を生む「大人のインターンシップ」 — 第27回ふるさと住民応援コンソーシアムオンライン座談会
イベント概要
- 日時: 2026年2月25日(水) 18:00〜
- 会場: Zoom オンライン座談会
- 主催: ふるさと住民応援コンソーシアム(定例開催)
- ゲスト: Dialogue for Everyone株式会社 大桃綾子(代表取締役)
- 対象: どなたでも参加可(自治体関係者・企業担当者・ミドルシニア当事者など)
政府が準備を進める「ふるさと住民登録制度」は、実際に暮らしていない人でも地域に関わる“住民”として登録できる仕組みで、関係人口を育むことをめざしています
これを見据え、ふるさと住民応援コンソーシアムでは毎週オンラインで座談会を開き、都市部の人材と地域の企業・自治体の新たな協働機会を探っています。第27回となる今回は、ミドルシニア向け越境学習を手掛ける当社Dialogue for Everyone(以下、DfE)の大桃綾子がゲストとして、「大人のインターンシップ」をテーマに実践知と課題を共有しました。鳥海彩(とりうみあや)事務局長(楽天グループ株式会社/ふるさと住民応援コンソーシアム事務局長)がファシリテーターを務め、大桃のプレゼンテーションの後に質疑応答や参加者との意見交換が行われました。
ミドルシニア越境支援の現状と課題認識
大桃はまず、日本企業における50代の存在感に触れました。多くの企業ではミドルシニア層が社員の約3分の1を占めています。しかし、アンケートやワークショップで50代の方に自分のキャリアの現在地を絵で描いてもらうと、「山の途中で立ちすくんでいる自分」や「登ってきた軌跡の先が見えない風景」といった絵が多く、そこには「俺の経験はつぶしが利かない」といった戸惑いが滲んでいるといいます
終身雇用に守られてきた世代にとって、転職や副業は心理的ハードルが高く、何かしたいという思いはあっても具体的な道筋が見えない
一方で、国としてもこの層のキャリア支援に関する明確な指針はまだ不足しており、企業は手探りで次の一手を模索しているのが現状です。
これまでのセッションで示された「ミドルシニアの越境学習」と国の「支援制度」を、実践の現場ではどのように捉えているのでしょうか。本パネルディスカッションでは、以下の多様なパネリストに登壇いただき、それぞれの立場から見たリアルな実践知、得られた成果、そして直面する課題を挙げ、地域におけるミドルシニア活躍の可能性を多角的に議論しました。

大人のインターンシップの仕組みと成果
DfEが提供する「大人のインターンシップ」は、企業で培った経験を地域の企業やNPO、自治体などに生かす越境学習プログラムです。受け入れ側は参加費用がかからず、参加者の所属元である企業が研修費を負担する仕組みで、期間は2~3か月程度の“お試し”を前提としています。大桃は、品質管理のエキスパートが北海道の農業法人で品質管理工程の整備を支援した事例を紹介しました。参加者は品質管理のプロだが農業は素人、受入れ先は農業のプロだが品質管理は未知という相互補完によって「急いでないけれど大事な課題」に取り組み、オンラインでの協働が可能になったとのことです。(詳細はこちら)
このような仕組みは参加者のリスクを抑えつつ地域に人材を送り込むことができ、これまでに約4割がインターン終了後も地域との関係を継続し、現地を訪れたり副業へと発展したケースもあるといいます(インターン受入の詳細はこちら)
参加者自身も「自分の経験が社会で生きる」という手応えを得ており、閉塞感から抜け出すきっかけになっています。
企業がミドルシニアに投資する3つの観点
企業側にとって、ミドルシニアへの投資は単なる研修費用ではありません。大桃は、次の三つの観点から「大人のインターンシップ」を捉える必要があると強調しました。
- 組織全体の活性化 — 経験豊富なミドルシニアが越境学習を通じて刺激を受け、内発的な成長意欲を再び取り戻すことは、職場に新たな視点と活力をもたらします。
- 地方創生事業への新しい視点 — 地方企業や自治体に入ることで、普段接することのない課題や資源に触れ、社内の新規事業や地域連携の発想につながります。
- 人的資本経営・サステナビリティ — サステナビリティや人的資本の観点から、シニア層の学び直しや社会貢献は、若手層の離職防止など、企業の長期的な価値創造に直結します。経営戦略と連動させ、トップダウンで推進することが重要です。
成功の鍵: 送り出し側と受け入れ側、双方の準備
プログラムを軌道に乗せるには、送り出す企業と受け入れる側の双方の準備が欠かせません。まず、参加する本人が「残りの人生で何をしたいのか」を言語化することが第一歩です。過去の成功体験や肩書きを一旦脇に置く勇気も求められます。また、受入れ先には業務の切り出しや受け入れ体制の整備が必要で、経験あるミドルシニア人材であっても、地域の状況に関しては初心者であるという共通認識を持つことが大切です。双方の準備が整って初めて、地域と企業の良い化学反応が生まれます。DfEは、プログラムの一環として、協働の支援も手掛けています。
地域活性化起業人制度への展開: ステップを小さくする戦略
現在、国が推進する地域活性化起業人制度では、企業が社員を自治体にフルタイム派遣する「企業派遣型」が主流ですが、参加者・企業・自治体の負担が大きく導入ハードルは高いのが実情です。大桃は、
副業型やシニア型という月20時間程度の小さなステップから始められる制度が新設されたことを紹介し、「インターン→ふるさと住民登録制度:プレミアム登録→副業型→二地域居住→移住」と階段を小さく設計することの重要性を示しました。心理的にも制度的にも負担の少ない入り口を用意することで、ミドルシニアが一歩を踏み出しやすくなり、地域活性化起業人制度へのスムーズな展開が期待されます
地域活性化起業人・企業派遣型の実践知と課題
質疑応答では、企業派遣型を実施している自治体や企業担当者から具体的な課題が共有されました。派遣前には人事制度の調整、家族への説明、業務の引き継ぎなど「結婚式のような儀式的対応」が必要で、送り出す側の心理的・実務的負担が大きいことが指摘されました。また、自治体に入ると民間とは異なる言語や文化の壁があり、同じ会社内の地方拠点への赴任とはまったく違う環境に置かれるという声も上がりました。こうしたミスマッチを減らすためには、事前のマインドセットや目的の言語化を含む丁寧な準備が不可欠で、インターンシップのように小さなステップで「お試し」できる制度が有効であることが再確認されました。
コンソーシアムを活用した新しい展開の可能性
鳥海さんと大桃の対話では、コンソーシアムを活用した新しいモデルの提案もありました。具体的には、1人あたりの研修費を複数企業が持ち寄り、コンソーシアム内で「相乗り」する形でプログラムを実施する案です。これにより、単独企業だけでは踏み出しにくい意思決定を複数企業の共同投資で進められ、さまざまな業種・規模の企業がミドルシニアの越境支援に参加しやすくなります。
自治体側の視点: 費用対効果とイメージ不足
受け入れ側である自治体からは、予算確保の難しさと副業型導入への不安が率直に語られました。現在は企業派遣型が中心で、副業型やシニア型を活用している自治体はほとんどありません。議会や上司を説得するには費用対効果の明確化が欠かせず、DfEのインターンシップを「お試し」として導入することで具体的な成果を提示しやすくなるとの意見がありました。また、都市から来る経験豊富な50代を受け入れる際に「上から目線にならないか」「現場に合わない提案をされるのではないか」といった不安もあり、受け入れ側の伴走支援や柔軟な役割設計が求められています。
政策だけでは続かない、学びと働くの接続
政策的な仕組みや支援制度は、越境のきっかけをつくる重要な装置ですが、それだけでは人を動かす磁力にはなりません。参加理由や動機は人それぞれであり、自治体は自らの課題や求める人材像を丁寧に言語化し、都市側のミドルシニアの経験・スキルと具体的に接続していくことが必要です。画一的な促進策から、地域の特性やステークホルダーに応じたターゲット設定への転換が求められているという点で、参加者全員が一致しました。

まとめ: 年齢にとらわれず挑戦し続けられる社会に向けて
今回の座談会では、ミドルシニア人材の越境が企業・地域・個人にとっていかに大きな可能性を持つかが再確認されました。大桃が紹介した「大人のインターンシップ」は、都市と地方のギャップを埋める中間支援として、シニア層に新しい学びと働き方を提供しています。また、ふるさと住民登録制度(プレミアム登録)との連携により、関係人口として地域と継続的に関わる道も開けます。年齢にとらわれず誰もが挑戦し続けられる社会を実現するには、ミドルシニア個人の意識変革、企業の戦略的投資、国の柔軟な制度設計、そしてDfEやコンソーシアムのような中間支援組織の役割という四つの歯車がかみ合うことが不可欠です。コンソーシアムを舞台に、こうした実践知の共有と横展開が進むことで、都市と地方をつなぐ新たな生態系が育まれることを期待します。
質疑応答ハイライト
座談会終盤では、鳥海さんによるファシリテートのもと、参加者との活発な意見交換が行われました。その主な内容をまとめます。
- 企業側からは、シニア人材活用に関する制度理解や社内推進の難しさ、派遣前準備の負担の大きさが共有されました。
- 一方で、インターンとして参加できる仕組みが導入リスクを下げる手段として期待され増した。
- また、50代に対する投資を「誰が言い出すのか」が難しい、いずれ自分にも回ってくる問題だが、コストをかける意思決定がしづらい。
全体の共通認識
参加者全員が、企業派遣型のハードルの高さ、小さなステップで試すことの重要性、送り出す前の準備不足、コンソーシアムを活用した共同モデルの可能性、そして経済効果の可視化の必要性を共有しました。こうした認識を踏まえ、今後はコンソーシアム内での事例共有や支援策の具体化に向けた議論が進むと期待されます。
会議を終えて
関係人口や越境学習、副業型の働き方は、いまだ社会全体に十分浸透しているとは言えず、ミドルシニアによる越境型の働き方も、まさにこれから広がっていく新しい挑戦の段階にあります。だからこそ、挑戦に伴うコストだけに目を向けるのではなく、挑戦しなかったことで出会えたかもしれない可能性や機会に思いを巡らせていただきたいと考えます。新しい一歩は小さくても、その先には人と地域、そしてコミュニティをつなぎ直す大きな価値が生まれます。ミドルシニアとの新しい働き方を通じて、多様な経験が地域に循環し、より豊かな関係性と活力が育まれていく未来を、これからも共に模索していきたいと思います。



